監修者

株式会社インシュアラ 代表取締役
金松 裕基
株式会社インシュアラ(信頼の解体レスキュー)の代表取締役社長であり、同サイトの監修者を務める金松裕基氏。 建物解体、内装解体、店舗解体を主な事業とし、その豊富な経験と専門知識を活かして「信頼」のサービスを牽引しています。代表として、また業界の専門家として、安全かつ高品質な解体工事の実現に尽力し、顧客からの厚い信頼を得ています。


杭抜き費用の相場は1本あたり3万〜16万円です。幅が大きいのは、杭の種類と長さ、支持杭か摩擦杭かで引き抜く手間が変わるためです。全国24件を集計した調査では平均157,880円、木造住宅に限れば29,100円。これに重機の回送費と処分費が別に乗ります。杭を残す選択も条件次第で認められますが、抜いた杭を埋め戻すのは不法投棄です。
なお、解体の見積もりを取っている段階でそもそも自分の家に杭があるか分からないという方は、費用の話より先に着工前に分かる3つの資料を読んでください。杭が無いと分かれば、この記事の金額はあなたに関係のない数字です。

この記事は埼玉県の解体工事業登録名簿に登録番号2893で掲載されている解体業者・株式会社インシュアラ(代表 金松裕基・解体実績1,000件超)が監修しています。費用の数字は調査データと見積書の実例を出典つきで示し、工法と埋戻しは一般社団法人日本杭抜き協会と土木技術コラムの一次資料、残置の法的扱いは日建連のガイドラインと自治体の取扱い基準に基づいています。当社の現場で見てきたことは吹き出しで区別して述べます。監修者の経歴は代表あいさつのページをご覧ください。
㈱インシュアラ代表取締役社長 金松裕基こんにちは、株式会社インシュアラ代表の金松です。杭の話で施主様がまず驚くのは、金額の幅です。1本3万円と聞いていたのに16万円と言われる。同じ杭抜きなのになぜ、と思われるのは当然です。この幅には理由があって、それは杭の太さでも本数でもなく、その杭が何を頼りに建物を支えていたかで決まります。そこを先に説明させてください。理由が分かれば、見積書のどこを見ればいいかも分かります。
先に断っておくと、杭抜きには公的な標準単価がありません。国土交通省の標準歩掛にも、住宅の既存杭撤去という項目は用意されていません。ですから以下の数字は、解体業界のサイトが公開している実績と相場です。それでも複数の情報源で幅がほぼ重なるので、見積書を読むときの物差しにはなります。
| 杭の種類 | 1本あたり | 1mあたり | 費用が動く理由 |
|---|---|---|---|
| 木杭(松杭) | 1万〜2万円前後 | 8千〜1.5万円前後 | 腐食して折れやすく、掘り直しが発生しやすい |
| コンクリート杭(RC杭) | 2万〜5万円前後 | 1.5万〜4万円前後 | 斫りと処分費が重くなりがち |
| PC杭・PHC杭 | 3万〜5.5万円前後 | 2万〜5万円前後 | 高強度で抜きにくく専用重機が必須 |
| 鋼管杭 | 3万〜5万円前後 | 2万〜4万円前後 | ガス切断が必要。金属スクラップとして処分 |
| 直径300mm程度の杭 | 総額7万〜16万円 | ー | 処分費と回送費を含んだ総額の目安 |
相場の話で一番参考になるのは、解体無料見積ガイドが公開している集計です。同サイトは全国24件の杭抜き工事の実績から、1本あたりの平均単価を157,880円としています。ただしこの数字にはビルやマンションの大口径杭が含まれます。木造住宅に限った平均は29,100円です。
この2つの数字の差が、相場を読むときの肝になります。ネットで「杭抜きは1本10万円以上」と書かれた記事を読んで不安になる方が多いのですが、木造住宅の建て替えや売却で出てくる杭は、平均3万円前後の世界です。ビルの解体と住宅の解体では、同じ杭抜きという言葉でも桁が違います。自分がどちらの話をしているのかを最初に切り分けてください。
解体無料見積ガイドが公開している見積書の実例を引用します。杭25本を撤去したケースです。
| 項目 | 単価 | 数量 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 杭抜工事費 | 35,000円 | 25本 | 875,000円 |
| 地中杭処分費 | 3,000円 | 25本 | 75,000円 |
| 重機回送費 | 20,000円 | 2回 | 40,000円 |
| 合計(諸経費等含む) | 1,069,200円 | ||
ここで注目してほしいのは、引き抜きの単価35,000円に対して、処分と回送で115,000円が別に乗っているという構造です。25本という比較的多い現場でも、本体以外が総額の1割強を占めます。本数が少ない現場ほど、この固定費の比重は重くなります。杭が2本しかなくても重機の回送費は同じだけかかるということです。
1本3万円と言われても、それが大きいのか小さいのか、解体の総額を知らないと判断できません。座標を置いておきます。当サイトの解体費用の計算方法の記事では、木造30坪の戸建てについてまず150万〜200万円程度を予算のベースに置くことを勧めています。坪単価4万円で試算した場合の総額は180万円前後です。
ここに木造住宅で典型的な、杭が2本出たケースを乗せてみます。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 引抜き | 木造平均29,100円 × 2本 | 約5.8万円 |
| 重機の回送 | 2万〜2.5万円 × 搬入搬出2回 | 4万〜5万円 |
| 処分 | 杭の大きさで幅が大きい | 別途 |
| 上乗せの目安 | 解体総額180万円に対して | 10万円前後・約5% |
つまり木造住宅の杭抜きは、解体費用の桁を変えるものではありません。不安を煽る記事が多いので、そこは先に言っておきます。ただし2本でも回送費は4万〜5万円かかる。引抜きそのものとほぼ同額です。予算をぎりぎりで組んでいた方、売却代金から解体費を出す予定だった方には、この10万円が効きます。そして何より、予定に入っていなかったお金は、金額の大小と関係なく揉めます。項目ごとの内訳の考え方は解体費用の内訳の記事にまとめています。
杭抜きは重機を持ってきてすぐ始まる工事ではありません。杭抜き機の組み立てだけで5〜6時間、狭小地で条件が悪ければ8時間かかります。組み立てと解体で2日分の工程が別に必要になると考えてください。
全体の工期については、解体見積もり広場が「基準となるような工期目安がない」と正直に書いています。短ければ1週間から10日程度で終わることもあるが、敷地が広い現場や鉄骨・鉄筋コンクリート造では長期に及ぶこともある、という説明です。解体本体の工期に杭抜きが上乗せされるので、引き渡しや売買の期日が決まっている場合は、ここを最初に確認してください。



金松です。費用の表を見ると「うちは何本だから何万円」と計算したくなりますが、現場で金額を動かすのは本数より杭の状態です。図面どおりの位置に、図面どおりの長さで、まっすぐ入っている杭なら計算どおりに抜けます。ところが古い家の杭は、傾いていたり、途中で割れていたり、図面より深く入っていたりします。そうなると引き抜きの時間が伸びて、重機を止めている日数がそのまま費用になる。だから当社は見積もりのときに、図面と違ったらどうするかを先に決めておくようにしています。
ここが競合の記事であまり説明されていない部分です。同じ杭抜きなのに単価が5倍違う理由は、杭の太さだけではありません。その杭が何を頼りに建物を支えていたかで、抜く手間がまったく変わります。


| 種類 | 支え方 | 長さの傾向 | 杭抜きへの影響 |
|---|---|---|---|
| 支持杭 | 硬い支持層まで杭を届かせ、先端で建物を支える | 支持層まで届く長さが必要。深くなりがち | 長いぶん引き抜きの手間と時間が増える。先端が支持層に食い込んでいると抜けにくい |
| 摩擦杭 | 支持層まで届かず、杭の周りと土の摩擦で支える | 支持杭より短いことが多い | 周面摩擦が抜くときの抵抗そのものになる。ケーシングで縁を切る作業が要になる |
支持杭は「深いから大変」、摩擦杭は「土に締め付けられていて大変」と考えると分かりやすいです。どちらであるかは地盤調査報告書と構造図で分かります。見積もりの段階でこれが分かっていれば、業者は工法と重機を先に決められるので、金額の精度が上がります。
当社の営業エリアである埼玉県は、地盤の性格が地形ではっきり分かれます。地盤調査会社のジオテック株式会社は、県の地形をこう整理しています。中央に大宮台地があり、西に荒川低地、東に中川低地。荒川流域と中川流域は主に泥質の沖積低地。そして低地について、軟弱地盤を形成していることが多いため基礎形式の選定は特に慎重に行う必要がある、と述べています。一方で台地は住宅地盤としては良好と考えられる、としています。
| 地形 | 主な市区町村 | 杭の可能性 |
|---|---|---|
| 中川低地 | 春日部市、草加市、越谷市、八潮市、三郷市、吉川市 | 軟弱地盤が多く、木造でも杭や地盤改良が入っている可能性が相対的に高い |
| 荒川低地 | 川口市、戸田市、蕨市など荒川沿い | 同上 |
| 大宮台地 | さいたま市の台地部、上尾市、桶川市など | 住宅地盤としては良好とされ、杭が入っていない可能性が相対的に高い |
表に無い市町村は埼玉県63市町村の解体ガイドから探してください。地形と補助金は市町村ごとにまとめています。
ここで誤解しないでいただきたいのは、これはあくまで当たりをつけるための材料で、敷地ごとの判断には使えないということです。同じ市内でも台地と低地が入り組んでいる場所は珍しくありません。低地だから必ず杭がある、台地だから無い、という話ではありません。ただ「うちは中川沿いだから、杭がある前提で見積もりを取っておこう」という構えを取れるかどうかで、追加請求に遭う確率は変わります。
追加請求と聞くと、業者が後から金額を吊り上げているように感じる方が多いと思います。ただ杭の場合は少し事情が違います。業者も見積もり時点では杭の存在を知らないことが多い。だから最初の見積書に載っていない。工事中に見つかって、初めて費用が発生する。この構造を知っておくと、防ぎ方が見えてきます。
| パターン | 何が起きるか | 追加になる費用 |
|---|---|---|
| 木造だと思っていたらPC杭が出た | 古い木造でも地盤が弱ければ杭が打たれている。基礎を割った下から太いコンクリート杭が現れる | 杭抜き工事一式が丸ごと追加 |
| 「杭の有無は不明」のまま契約した | 見積書に杭の項目が無い。出てきたら専用の重機を手配することになる | 重機の回送費と段取り費が一式で追加 |
| 抜いている途中で杭が折れた | 古い杭は中で割れていることがあり、引き抜くと途中で切れて下が残る | 試掘と追い抜きの費用が追加 |
3つ目の「途中で折れる」は、業者側にも読めないリスクです。杭の中の状態は抜いてみるまで分かりません。だからこそ、見積書に「折れた場合はどう扱うか」が書いてあるかどうかが、業者の誠実さを測る材料になります。
ここまで杭の話をしてきましたが、解体の追加請求で出てくるものは杭だけではありません。「地中埋設物」と呼ばれる一群があって、杭はそのうちの一つです。自分の土地に何が埋まっている可能性があるかを知っておくと、見積もりの取り方が変わります。
| 出てくるもの | どこから出るか | 処分の区分 | 見積もりでの扱い |
|---|---|---|---|
| 既存杭 | 建物の基礎の下 | 材質によりがれき類または金属くず | 本数と長さで単価が決まる。この記事の主題です |
| 古い基礎、コンクリートガラ | 前に建っていた建物の跡。庭や駐車場の下からも出る | がれき類 | 量が読めないため、出た時点で数量精算になりやすい |
| 浄化槽、古い井戸 | 建物の周囲や庭。下水道が通る前に建った家に多い | 内部の汚泥の抜き取りと本体の処分が別々にかかる | 撤去だけでなく、埋め戻しの方法まで決めておく必要がある |
| 地下タンク | ガソリンスタンドや工場の跡地 | 消防法の手続きと土壌の確認が別に必要 | 杭とは工程がまったく違う。地下タンク撤去の記事で解説しています |
共通しているのは、どれも見積もりの時点では地面の下にあって見えないという一点です。だから防ぎ方も同じになります。着工前に分かる範囲で調べ、分からないものは「分からない」と業者に伝え、出た場合の単価を先に書いてもらう。これだけです。解体工事のどの段階で何が見つかるかは解体工事の流れの記事で工程ごとに整理しています。
電話は突然です。仕事中にかかってきて、業者は現場で重機を止めて待っている。この状況で即答を求められると、多くの方が「お願いします」と言ってしまいます。そこで答えを決めておくのではなく、聞くことを決めておいてください。3つです。
この3つを聞いて、メールで送ってもらってから返事をする。これだけで、追加請求は「言われた金額を払う」ものから「内容を確認して合意する」ものに変わります。誠実な業者ほど、この待ちを嫌がりません。追加請求そのものの妥当性や、書面が無い場合の支払い義務については解体工事の追加請求トラブルの記事で整理しています。
追加請求を防ぐ一番確実な方法は、杭の有無を見積もりの前に業者へ伝えることです。地面を掘らなくても、家を建てたときの書類に答えが書いてあります。
| 資料 | 見る場所 | 分かること |
|---|---|---|
| 確認申請書(建築確認の副本) | 構造の欄と添付図面 | 地盤改良や杭工事を行った場合、その報告書が確認申請や完了検査の添付書類として提出されています |
| 構造図(基礎伏図) | 基礎の平面図 | 杭の位置、本数、径、長さが図として描かれています。これが最も確実です |
| 地盤調査報告書 | 調査方法と判定の欄 | 木造住宅では主にスウェーデン式サウンディング試験(SWS試験)が使われ、地盤の強さと杭や改良が必要かの判定が書かれています |
書類はハウスメーカーや工務店、設計事務所が控えを持っていることがあります。手元に無ければ建てた会社に問い合わせてください。確認申請の副本は自治体の建築指導課で閲覧できる場合もあります。
杭は鉄筋コンクリートのビルだけのものではありません。木造でも、地盤が軟らかい土地では杭を打ちます。近年の木造住宅では小口径の鋼管杭が使われることが多く、径が細いぶん図面が無いと存在に気づきにくい。逆に築40年を超える家では、松杭と呼ばれる木の杭が打たれていることもあります。建てた年代と土地の地形が、杭の種類を推測する手がかりになります。
図面も報告書も残っていない場合は、基礎の一部を試しに掘って確認する方法があります。費用はかかりますが、杭が出てから重機を呼び直すよりは安く済みます。試掘をするかどうかは業者と相談になりますが、少なくとも「杭の有無は不明です」と業者に正直に伝え、見積書に「杭が出た場合の単価」を先に書いてもらうことはできます。これだけで、追加請求の場面で数字を巡って揉める余地がなくなります。
木造の戸建てで、地盤調査報告書に改良も杭も不要と書かれていて、基礎伏図にも杭が描かれていない。この記事を読んでいる方の多くは、ここに着地します。その場合、以下の杭の話は読まなくて構いません。先に進んでください。
ただし一点だけ。図面に描かれていない杭が出てくることは実際にあります。増築部分の杭が本体の図面に載っていない、前に建っていた建物の杭が残っている、といったケースです。書類上は杭が無くても、見積書に「杭が出た場合の単価」の一行だけは入れてもらってください。無料でできる保険です。
ここは多くの解体サイトが曖昧に書いている部分です。「残すと売却で困る」とだけ書かれていることが多いのですが、実際には法的な整理があります。順に説明します。
既存の杭を地中に残すこと自体を、一律に禁じる法律はありません。実際、いわき市のように「地下工作物の埋め殺し(存置)の取扱い」を定めて公表している自治体があり、条件を満たせば存置が認められる運用になっています。
逆に言えば、地方公共団体が条件を満たすと判断しない場合、その杭は「廃棄物」とみなされ、環境への影響が懸念されるときは撤去の措置を求められる可能性があります。つまり残置の可否は、施主や業者が独断で決められるものではなく、自治体の運用に従うものです。日本建設業連合会は「既存地下工作物の取扱いに関するガイドライン」を、建築基礎・地盤技術高度化推進協議会は「既存杭の利活用・処理における情報表示ガイドライン」を公開しており、実務はこれらに沿って進みます。
地下工作物を存置する場合の前提として、アスベスト含有材やPCB機器などの有害物、および内装材や設備は完全に撤去しておくことが求められます。杭そのものにアスベストが入っていることは通常ありませんが、地下室や基礎と一体で残す場合は、この点が問題になります。「面倒だから埋めてしまおう」という判断が最も危険なのはここです。


この区別を知らないまま「残していいなら埋めてもいいだろう」と考えると、施主も責任を問われかねません。見積書に処分費が計上されていない杭抜き工事は、この点で疑ってください。抜いた杭がどこへ行くのか、マニフェスト(産業廃棄物管理票)で確認できるかを聞いておくと確実です。
土地の売買では、売主が契約不適合責任を負わない旨の免責特約を付けることがあります。これで安心だと思われがちですが、三井住友トラスト不動産の法律解説は、解体する建物に関係のない地中埋設物について責任を負うとの条件が付されていた場合、免責特約があっても売主側の責任が生じる場合があると指摘しています。そして実務対応として、解体する建物に関係のない地中埋設物については責任を負わない旨を売買契約書に明記しておくことを勧めています。
杭は「解体する建物に関係のある」埋設物です。つまり免責の範囲から外れやすい。加えて日本杭抜き協会は、残置した杭が跡地利用の際にやっかいな地中障害物となり隠れた瑕疵となる、土地売買取引後に発覚して賠償問題にまで発展したケースもある、と述べています。抜いた費用は売却価格に織り込めますが、売った後に見つかった杭の賠償は織り込めません。
| 土地をどうするか | 杭の図面・記録 | 判断 | 理由 |
|---|---|---|---|
| 売却する | あり・なしを問わず | 抜く | 杭は解体する建物に関係する埋設物で、免責特約の範囲から外れやすい。売却後の発覚は賠償問題になり得る |
| 建て替える(計画確定) | あり | 新設基礎と干渉しなければ存置も可 | 新設杭の施工に影響を及ぼさない既存杭は存置を検討できる(ConCom)。ただし自治体の取扱いに従う |
| 建て替える(計画確定) | なし | 試掘して位置を確定してから判断 | 位置が分からない杭は干渉の有無を判断できない |
| 建て替える(計画未定) | あり・なしを問わず | 抜くか、残すなら記録を残す | 将来の設計者か買主に判断を先送りすることになる |
| 駐車場など建物を建てない | あり | 存置も可。ただし将来売る可能性があるなら告知の準備を | 当面は干渉しないが、用途が変わった時点で問題が戻ってくる |
この4つをやっておけば、残置は「隠れた瑕疵」ではなく「開示済みの事実」になります。争いになるのは隠れているときだけです。
ここまで読むと「抜けば安心」と思われるかもしれません。ところが杭抜きで本当に問題になるのは、抜くことより、抜いた後の穴です。長さ10mの杭を抜けば、地中に10mの穴が空きます。その穴の埋め方が悪いと、数年後に地面が沈みます。しかも沈むのは、新しい家を建てた後です。


日本杭抜き協会が説明している工法は3つです。どれもまずケーシングという筒を杭の周りに回転させながら差し込み、杭と地盤の縁を切るところは同じで、その後の抜き方が違います。
| 工法 | 抜き方 | 埋戻しの仕方 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 輪投げ工法 | 縁を切った後、杭にワイヤーをかけて引き抜く | 杭孔の上部から充填材を注入 | 大口径や重い杭にも対応できる。一方で中折れや破損した杭が地中に残る場合がある |
| チャッキング工法 | ケーシング内蔵の爪で杭の先端を抱え込み、ケーシングごと引き抜く | ケーシングの先端から充填材を出しながら最深部から埋め戻す | 穴の底から埋められる。大口径や重量杭には限界がある |
| PG工法(協会標準) | チャッキング工法がベース | 注入材料、注入量、注入方法、注入管理に基準を設けている | 埋戻しの品質を管理する前提で組まれた工法 |


施主として押さえるのは一点です。穴を上から埋めるのか、底から埋めるのか。上から流し込む方法は、途中で詰まって下に空洞が残る可能性があります。底から埋める方法は空洞ができにくい。見積書に工法名が書いてあれば、この違いを業者に聞いてください。答えられない業者には任せないほうがいい。
もう一つ、見積書に出てくる「杭頭カット」という言葉も説明しておきます。これは杭を全部抜くのではなく、地表から一定の深さまでを切り取って、下は残す方法です。新しい基礎の底より下にある杭は建物に干渉しないので、そこまで撤去すれば足りる、という考え方に基づきます。全抜きより費用は下がりますが、杭の本体は地中に残るので存置の扱いになります。見積書に「杭頭カット」とあるなら、何mまで切るのか、その深さの根拠は新しい基礎の設計から来ているのか、を確認してください。


ConComの技術コラムは、既存杭の撤去で現場で起きた失敗を4つに分類しています。
同コラムは、これらの原因の大半を「地中にある既存杭が想定された状態ではなかったこと、主に既存杭の施工不良」だとしています。つまり失敗の種は、今回の解体業者ではなく、何十年も前に杭を打った工事にあることが多い。だからこそ、追加請求の場面で「なぜ抜けないのか」を業者に説明させ、写真で記録を残すことに意味があります。
埋戻しに使う材料は、ConComの整理では土、流動化処理土、貧配合セメントミルク、貧配合セメントミルクと土の組み合わせの4種類です。東京コンテックは、土で埋め戻した場合に埋戻し部が沈下した事例や、大雨の影響で沈下や陥没が生じたケースがあると述べ、充填材の強度を原地盤と同程度にして地盤の復元性を高めることが重要だと書いています。日本杭抜き協会も、不完全な埋戻しのために地中に空隙ができ、地盤が弱くなることを問題点として挙げています。
ただしConComは正直にこうも書いています。埋戻し地盤はできるだけ原地盤に近い状態にすることが望ましいが、配合や施工手順の違いで性状が異なるため、品質管理は思った以上に難しいというのが実情だと。基準はあるが、現場で確実に守るのは簡単ではない。だから施主側は、材料名を聞くだけでなく、次の記録が残るかどうかまで確認する必要があります。
ConComが「貴重な情報」として残すべきだとしている記録は3つです。既存杭の位置、撤去後の埋戻し範囲、埋戻し部と周辺地盤の性状。3つ目はサウンディング試験の結果や一軸圧縮強度といった数値のことで、次に家を建てる設計者が地盤を判断するときに使います。
この記録が無いと何が起きるか。同コラムは、埋戻し部が軟らかければ新設杭が引き込まれて傾き、硬ければ離れる方向に傾く可能性があると指摘しています。つまり埋戻しの状態が分からないまま新しい家の杭を打つと、新しい杭が傾きます。杭抜き工事の見積もりで埋戻し材の名前と、完了後に渡してもらえる記録を聞くのは、そのためです。
ここまでの内容を、見積書を受け取ったときに確認する項目に落とし込みます。杭が出る可能性が少しでもあるなら、契約前に全部埋めてください。
解体本体の見積もりは業者間で大きな差が出にくいのですが、杭抜きは差が出ます。理由は3つあります。自社で杭抜き重機を持っている業者は回送費を抑えられること。近隣の現場と重機の移動をまとめられれば、さらに下がること。そして工法の選択によって日数が変わることです。
ただし比べるときは総額ではなく、上の7項目が同じ条件で書かれているかを揃えてから比べてください。片方が全抜き、片方が杭頭カットの見積もりでは、安いほうを選んだつもりが将来の負担を買っていることになります。見積書全体の読み方は解体費用の計算方法の記事、項目ごとの内訳は解体費用の内訳の記事、工事全体の手順は解体工事の流れの記事にまとめています。
1本3万〜16万円が目安です。幅が大きいのは杭の種類と長さ、支持杭か摩擦杭かで手間が変わるためです。全国24件を集計した調査では平均157,880円ですが、これはビルの大口径杭を含む数字です。木造住宅に限れば平均29,100円とされています(解体無料見積ガイド)。これに重機の回送費が1回2万〜2.5万円、処分費が1本あたり別途かかります。
あります。地盤が軟らかい土地では木造でも杭を打ちます。近年の木造住宅は小口径の鋼管杭、築40年を超える家では松杭が使われていることがあります。埼玉県でいえば中川低地や荒川低地にあたる地域は軟弱地盤が多く、可能性が相対的に高くなります。構造図の基礎伏図か地盤調査報告書を見れば確実に分かります。
存置そのものを一律に禁じる法律はありません。自治体によっては地下工作物の存置に関する取扱い基準を定めており、条件を満たせば認められます。ただし条件を満たさない場合は廃棄物とみなされ、撤去を求められる可能性があります。また一度抜いた杭を現場に埋め戻すのは不法投棄にあたり、存置とはまったく別の扱いです。
杭抜き機の組み立てだけで5〜6時間、狭小地で条件が悪ければ8時間かかり、組み立てと解体で2日分の工程が必要です。全体の工期は現場によって差が大きく、解体見積もり広場は「基準となるような工期目安がない」としています。短ければ1週間から10日程度で終わることもあります。解体本体の工期に上乗せされるので、引き渡しの期日がある場合は先に確認してください。
原則として施主の負担です。見積もりに無かったからといって業者が負担する義務はありません。ただし追加の金額と内容に合意する前に作業を進められた場合は争いになります。杭が出た時点で本数、種類、単価、埋戻しの方法を書面かメールで受け取ってから再開してもらってください。
次に建てる建物の基礎や杭の位置と干渉しないなら選択肢になります。ただし杭の本体は地中に残るので存置の扱いになり、自治体の取扱い基準に従う必要があります。売却時には残置杭として告知が必要です。見積書には杭頭から何mまで撤去するかを数字で書いてもらってください。
どちらも地中埋設物として追加費用の原因になる点は同じですが、地下タンクは消防法の手続きと土壌の確認が絡み、杭とは別の工事です。地下タンクの撤去についてはガソリンスタンドの地下タンク撤去の記事で解説しています。
杭抜き単独を対象にした補助金は当社の知る限りありません。空き家の除却補助を出している自治体では、解体工事全体の費用に杭抜きが含まれていれば対象経費として認められる場合があります。要綱ごとに扱いが違うので、お住まいの自治体の制度を埼玉県63市町村の解体ガイドから確認してください。
杭抜き費用の相場は1本3万〜16万円、木造住宅なら平均3万円前後です。解体総額180万円の現場で杭が2本出たとして、上乗せは10万円前後。桁が変わる話ではありません。それでも揉めるのは金額の大小ではなく、誰も杭の存在を知らないまま契約したことが原因です。予定に入っていなかったお金は、いくらであっても揉めます。
図面が手元に無い、杭があるかどうか分からない、という段階でも構いません。当社では見積もりの際に、杭が出た場合の単価と手順を先に書面でお示ししています。
この記事の費用と工期の数字は2026年9月時点で公開されている情報を確認して書いています。杭抜きには公的な標準単価がなく、金額は杭の状態と現場条件で大きく変わります。実際の判断は、現地を見た業者の見積書と、お住まいの自治体の取扱い基準でご確認ください。















